1 はじめに
事業を営む場合,不動産を賃借する場合が多いと思います。その場合の賃料は,継続的に発生するコストであり,これを削減することができれば,収益向上や収益改善になります。
もっとも,賃借人側が,現在契約中の物件に関する賃料の減額を賃貸人に交渉していくケースは,多くないように思います。これは,賃借人が契約の途中で契約内容を変更することがそもそも難しいという意識をもっていたり,減額を希望したことで,賃貸人から退去を要求されてしまうことを危惧しているからかもしれません。
2 賃料減額請求権
しかし,賃料減額請求権は法律が認める権利です。
借地借家法11条,32条です。賃貸借契約の中で賃料減額請求ができない旨を定めたとしても,そのような定めは無効と解されています。ただし,定期建物賃貸借契約では,賃料減額請求ができない旨を定める特約も有効となります(借地借家法38条9項)。
(地代等増減請求権)
第11条 地代又は土地の借賃(以下この条及び次条において「地代等」という。)が、土地に対する租税その他の公課の増減により、土地の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍類似の土地の地代等に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって地代等の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間地代等を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
2 地代等の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の地代等を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。
3 地代等の減額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の地代等の支払を請求することができる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払を受けた額が正当とされた地代等の額を超えるときは、その超過額に年一割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければならない。
(借賃増減請求権)
第32条 建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
2 建物の借賃の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。
3 建物の借賃の減額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃の支払を請求することができる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払を受けた額が正当とされた建物の借賃の額を超えるときは、その超過額に年一割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければならない。
3 交渉の注意点
⑴ 賃貸借契約における賃借人は,借地借家法により厚く保護されています。したがって,賃借人が賃貸人に対し「賃料を減額して欲しい。さもなければ退去を検討する」と告げた程度で,賃貸人が賃貸借契約を解除することはありません(仮に解除したとしても,そのような解除は無効となります)。
しかし,賃借人が賃貸人に対し「賃料を減額して欲しい。さもなければ退去する」と告げた場合,この告知は,賃貸借契約の解除の申込みととられかねません。この場合,賃貸人が解除に応じると言えば,賃貸借契約が合意解除によって終了することとなり,賃借人はただちに建物から退去しなければならなくなる可能性があります(原状回復等の負担も負う場合がある)。仮に賃貸人が何らかの事情で,賃貸借契約を解除したいと考えていた場合には,賃借人自ら賃貸人の希望する状態を作りだしてしまうことになり,賃料減額交渉もうまくいかなくなります。
⑵ 交渉にあたっては,現在の賃貸借契約の内容を精査しておく必要があります。賃貸借期間,自動更新条項の有無,中途解約の可否,中途解約の場合の違約金の有無等です。
また,賃料減額交渉においては,賃借人側が,現在の賃貸借契約を終了させることができるか(他に移転することも検討に入れているか)もポイントになります。この場合は,移転先の賃料等賃貸借条件や移転先の立地等と比較しながら,賃料減額の交渉をすすめていくことができます。
4 調停,訴訟
賃料減額請求に関し,賃借人と賃貸人とで協議がまとまらない場合には,賃借人においては調停を申し立てることができます。
調停でもまとまらない場合には,賃借人において訴訟を起こすことができます。この調停や訴訟では,不動産鑑定士による鑑定が行われることが多く,この鑑定結果が調停や判決の内容に影響を与えることが多いと思います。
弁護士 植木 博路