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コラム

FRBのインフレ退治とマーケットの楽観論

投稿日

2023.07.31

投稿者

永留 克記

カテゴリー

その他企業法務全般

日経新聞2023年(令和5年)7月28日

米国の中央銀行FRBは、2023年7月25日・26日開催のFOMCで、0.25%の政策金利の利上げを全会一致で決定。

併せて、FF金利誘導目標を5.25%~5.5%と定めた。

市場予想どおりであり、米国のマーケットは、FRBのインフレ退治成功を期待して、上記利上げで打ち止め、米国経済は、景気後退なしのインフレ終息、いわゆるソフトランディングを楽観しているようにみえる。7月26日ニューヨークのダウ平均株価が、1987年以来36年ぶりの13営業日連騰となったことに現れている。

確かに、米国の消費者物価指数(CPI)は、昨年2022年中に実に9%を超えていたのが、米国労働省がこの7月12日に発表した6月のCPIは、前年同期比3.0%上昇と、前月の4.0%上昇から大幅に鈍化し、FRBのインフレ退治が順調に進んでいることを示している。

これは、エネルギー価格(石油、天然ガスなど)の国際相場にも現れていて、原油価格(WTI)は、高いときは1バレル120ドルを超えていたのが、その後80ドル台、70ドル台と下落して、落ち着きを見せ、銅やアルミニウムなどの金属や大豆などの国際相場価格も相当下がってきているためである。

しかしながら、私もFRBのインフレ退治の成功を祈念しているものの、まだ楽観するのは早い、油断大敵だと考える。

原油については、供給超過ぎみであり、OPEC諸国も、価格下落を防ぐため、減産しているくらいである。

現在、制裁を受けたロシアから大量に石油を買っている国の一つはインドである。その年間輸入量のロシア分は4割。その分減産しているサウジアラビア、イラクなどのOPECからの輸入量が減っていて、OPEC減産と見合っている。

もう一つの国は中国(チャイナ)。景気は悪くて(16歳から20歳の若年者の失業率は20%を超えている)、石油需要は元気なしのはずだが、不思議なことに、中国はロシアから大量に買うだけでは足りずに、OPEC減産分を米国のシェイルオイル、ブラジル、ガイアナなどからまで買い付けて補っている(台湾有事に備えて備蓄でもしているのだろうか?)。

それら原油は、メキシコ湾の石油施設の港から積み出されて、VLCC(大型石油タンカー)に載せられ、パナマ運河を通って、

太平洋に出て、はるばる太平洋の波頭を越えて、アジアの中国に運ばれている。

太平洋コースは、紅海、ホルムズ海峡、インド洋、マラッカ海峡を通るコースと比較すれば、断然輸送距離は長くなる。

さらにパナマ運河では通過順番待ちの上、脱炭素で、CO2排出量を抑えるために、VLCCは、タンカーの速度を遅くしているため、なお一層輸送速度は遅くなっている。

今年は、エルニーニョのために、6月までに主要輸入地であるアジアでサイクロンが二つも立て続けに発生して、大洪水となり、VLCCが港で足止めを食い、ただでさえ遅い輸送速度に、輸送スケジュールの大幅な遅れが加わって、VLCCが戻ってくるのが遅くなり、原油を積み込む中東でのタンカー不足が起こって、タンカーの奪い合いとなって、VLCCのスポット運賃が6月19日までの2週間で8割高と急騰したことが日経新聞6月21日記事にのっていた。

このような状態に中国の景気が多少良くなって、現実の原油需要増加となれば、原油の国際相場価格もどうなるかわからない。

先週、原油価格(WTI)が、70ドル台半ばとなり、ついに週末には80ドルになり、米国国債の10年物の長期金利が久しぶり4%に達したのは不穏な動きと言わざるを得ない。

米国6月CPIにしても、変動の大きいエネルギー(原油等)と食料価格を除く、コア指数は、前年同期比はいまだ4.8%に高止まりしている。

そのコア指数を占めるものの一つ、住宅関係の価格をみてみる。どんどん上昇するケース・シラー価格指数を見て、遅ればせのFRBに、果たして住宅価格のコントロールは出来るのかと心配したものの、そのFRBがその遅れを取り戻すかのように、4回もの0.75%の大幅利上げを含む、大幅利上げが功を奏して、住宅ローン金利も一時7%を超えて、昨年2022年7月からケース・シラー価格指数は下げトレンドに入ったことでほっと安心したものであるが、子細に見ると、完全に安心するのはまだ早い。

確かに、中古住宅販売個数は減少しているが、これは売れ行きが悪いからではない。

米国消費者は、リーマンショックのとき、痛い目(サブプライム・ローンの変動金利)にあって、現在、住宅ローンを組む人の8割は固定金利型。しかもその大半が現在のFRBの誘導金利水準の5%よりも低い金利で住宅ローンを組んでいて、繰り上げ返済をして、新たな住宅ローンを組み直すと、6%を超える高い金利でしか住宅ローンを組めない。

したがって、中古の持ち家を売って、繰り上げ返済をして、新しく住宅ローンを組み直して、新しく別の家に買い換える人はいない。

要するに、中古住宅販売個数の減少は、中古住宅を売りに出す人が少ないために販売個数が減少したから生じたものである。

それでも、住宅への需要は強い。6%を超える住宅ローンを組んででも、新しく住宅を買おうとする人はいるからである。

インフレで物価は上昇しているが、中には、所得も上昇していて、高金利の住宅ローンもなんとか払えると思う人がいるからであろうか?

こんな状態で、利下げなどとんでもない。うっかり利下げをすれば、せっかく押さえ込んだ住宅価格に火を付けて、再び住宅価格上昇を生じて、せっかく下落し始めた家賃を上昇させる危険性があるからである。

コア指数を占める労働賃金を見てみよう。月当たり賃金上昇ペースもひところよりは低下してきているが、雇用情勢は堅調であり、賃金水準の低下も遅い。

FRBの思い切った利上げによって、GAFAMなどは雇用調整を始めたものの、中堅以下の大半の企業は雇用調整に手を付けていないようである。

コロナショックの時、大量解雇した元従業員が、コロナが静まった現在もなかなか戻ってきてくれず、人手不足に悩まされて、今は、うかつにレイオフなど出来ないからである。

現実に失業保険申請者数も、失業手当継続受給者数もそれほど増えていない。

以上のとおり、賃金インフレはなかなかおさまらない。

もう一つ気がかりは、FRBのバランスシートの縮小が進んでいないことである。

FRBのコロナ前のFRBのバランスシートに占める米国国債やMBS(住宅ローン担保証券、住宅ローンの元本や利子の返済の裏付けとして発行された証券)は、4兆ドルくらい、その後コロナショックでFRBが金融システム安定を目的に米国国債やMBSを買い入れて、9兆ドルまでに達して、その後縮小させて、8兆ドルが見えてきたところ、シリコンバレー銀行等の銀行破綻が起きて、4000億ドルほど増やして、その後減らして、現在、やっと8兆ドル水準になったところである。

この過剰流動性が解消されないうちに、上記の心配事に、さらにエルニーニョなどによる気候変動(干ばつ、大洪水)から穀物価格が上昇するなどが加わって、インフレが再燃する危険性は考えられる(過剰流動性について「米国国債の長期金利の歴史とロシアのウクライナ侵攻」を参照)。

何か質問があれば、当職所属事務所(電話 093-967-1652)にお電話下さい。